マイクロ波化学技術Microwave
1.電子レンジのサイエンス: マイクロ波って何だろう!

2.マイクロ波化学の特徴
加熱のメカニズム
 
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| 通常の加熱プロセス: 外部の熱源で加熱をし、加温により反応を進める。  | 
                マイクロ波加熱: 物質の誘電損失による発熱現象に基づいた内部加熱により反応が進む。  | 
            
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| 金属はマイクロ波を 反射する性質がある。  | 
            水やアルコールはマイクロ波を 吸収して温まる。  | 
            ガラスやドライアイスは マイクロ波を素通しして 電子レンジの中でも温まらない。  | 
          
電子レンジの原理を用いたマイクロ波反応装置
マイクロ波反応装置を用いるとどんなことがいいの???
反応時間の短縮

物質の電気伝導度(σ), 誘電的性質(ε"), 磁気的性質により物質自身が発熱するため、高温化で急速な反応が生じる。
マイクロ波化学技術2Microwave chemistry
マイクロ波化学の原理
マイクロ波化学は,化学技術と電波技術が融合した新しい科学分野である。
          マイクロ波合成は迅速,高純度合成に威力を発揮している。
マイクロ波化学で用いられる電波
マイクロ波という呼称は、 電波の中で極短波であることを意味して名づけられ、波長域が1m~1mm、周波数300MHz~300GHzの電磁波を指している。

産業、科学、医療の領域で使用できる電波の周波数は電波法でIMS周波数(IMS:Industrial,Science,Medical)として決められている。
          IMS周波数は933.92MHz,2.45GHz,5.8GHz,24.125GHzで、マイクロ波化学反応装置で用いられる周波数は電子レンジの周波数と同じ2.45GHzである。
          これは電磁レンジの普及により、この周波数の発振器が廉価に入手できるからである。
マイクロ波と化学反応-誘電加熱-
マイクロ波を物質に照射したとき、物質の性質によって反射(例,金属)、透過( 例,ガラス,CO2)、吸収(例,H2O,極性溶媒)の3つの現象が生じる。
          マイクロ波化学の選択性はこの3つの現象に基づいている。
          物質に対するマイクロ波の作用は、マイクロ波電磁界中での物質の双極子の配向変化である。
          電磁界がないとき、分子双極子はランダムな向きをとっているが、電磁界下では、規則的に配列する。
周波数2.45G Hz のマイクロ波下では物質は振動電場中にあるため、双極子は電場の動きに支配されて配向する。
          マイクロ波吸収による物質の発熱現象は双極子の配向が時間的にマイクロ波電場の変化に追随しないために生じる。
          このため、物質が本来持っている誘電性が一部熱として失われる。この現象を誘電加熱と呼ぶ。
誘電加熱は、物質の双極子、イオンの伝導率、透磁率によって生じる。
          液体の誘電加熱の大きさを決めるパラメータは次のようになる。
          誘電率ε'は液体物質の真空中の誘電率ε0に対する比誘電率でマイクロ波の周波数と温度に依存する値である。
          誘電損率ε"はマイクロ波入力が熱に変換された量を表わす。
          誘電体の性質が失われるという意味から誘電損率と呼ばれる、溶媒とマイクロ波の相互作用による発熱の指標として有用である。
          ε"/ε'はマイクロ波エネルギーが熱に変換される効率に相当し、誘電正接 tanδとしても定義される。
          溶液中の化学反応において反応に関与する溶媒の誘電特性の実験データが反応の予測に有用である。
          表1には種々の溶媒のε',ε"を示す。
表1)2.45GHz,25℃における溶媒の沸点と誘電パラメータ
| 溶媒 | 沸点/℃ | 誘電率ε' | 誘電損率ε" | 
| グリセリン | 290 | 43 | 27.99 | 
| エチレングリコール | 198 | 37 | 49.95 | 
| エチルアルコール | 78 | 24 | 22.87 | 
| メチルアルコール | 65 | 33 | 21.44 | 
| 水 | 100 | 80 | 9.9 | 
| 溶媒 | 沸点/℃ | 誘電率ε' | 誘電損率ε" | 
| プチルアルコール | 118 | 17 | 9.76 | 
| ジメチルフォルムアミド | 153 | 37 | 6.07 | 
| ジクロロメタン | 40 | 9.1 | 0.38 | 
| テトラハイドロフラン | 66 | 7.4 | 0.35 | 
| トルエン | 111 | 2.4 | 0.1 | 
マイクロ波の効果が大きい溶媒と効果がまったくない溶媒の相違がはっきりする。
          ε" が大きいグリセリンや、エチレングリコールが高沸点溶媒として	マイクロ波合成ではよく利用される。
          イオン性溶媒やイオン性物質もマイクロ波により発熱する。しかし非極性溶媒は全く加熱されない。
マイクロ波照射と化学反応
マイクロ波電磁界中での有機合成反応が高速・高効率で進む要因の他の例は、マイクロ波電磁界下での双極子相互作用による遷移状態の変化があげられる。
          マイクロ波による活性化エネルギーの減少が反応速度を著しく増加させると考えられる。 
          活性化状態のエネルギーが高く、遷移エネルギーが大きく、反応に長い時間を要する反応系に対して、マイクロ波効果は著しい。
          遅い反応をねらえ!ということは、マイクロ波合成を考えるときの一つのヒントとなる。
マイクロ波合成反応の特徴は次のようにまとめることができる。
- ・反応時間の驚異的短縮⇔従来法の1/100 ~ 1/20の時間に短縮
 - ・環境にやさしい化学技術⇔無溶媒,無害な溶媒で合成
 - ・省エネルギー⇔消費電力の削減,作業時間の短縮
 - ・新規物質の創成⇔新しい有機合成化学プロセスの提供
 
マイクロ波合成実験における注意
マイクロ波合成は、電子レンジでチン! で出来るとか考えられがちであるが、電子レンジでの実験は危険を伴う。
          特に学生だけで電子レンジ実験を行うことは絶対に避けたい。
          マイクロ波照射により反応速度が著しく増すことから、反応が暴走することもあるので、実験は必ず温度制御下で行うことが必要になる。
          マイクロ波反応装置は温度制御の下に実験が行なわれるように設計されている。
          実験系にあわせてマイクロ波反応装置を選んで新しいマイクロ波合成法を研究しよう。
マイクロ波化学技術3Microwave chemistry
電子レンジの技術から生まれたマイクロ波反応装置
電子レンジでチン!するとたちまちご飯がほかほかに温まる。
            この原理を化学反応に応用してみよう!
           こう考えていろいろなマイクロ波反応装置が開発された。
        
      
                
                

